キミキス*Kimikiss SS図書室
PS2ソフト「キミキス*Kimikiss」(©2006 ENTERBRAIN,inc.)のメインヒロイン・星乃結美をメインにした創作小説図書室です。

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キンモクセイの咲く街 -3-

お待たせいたしました。
光一サイドの第2話です。
結美サイドは追って公開します。


10000行く頃に公開できれば…と。予定ですけどね。
―――――――――――――――――――――――――――――――


「少々お待ちください!」
バイトを始めて1週間。このお店の環境にも、少しずつ慣れてきた。
那奈さんの指導のおかげで、オーダーを一人で取ることもできるようになった。
マスターの強面は相変わらず苦手だけど…。


あの日…受話器を置いてから、星乃さんに逢いたい気持ちはグンと加速した。
星乃さんに会って、励ましてあげたい。彼女を守ってあげたい。
そのために僕がするべきことは、彼女の元へ向かうための資金作り…。
彼女に会うために、僕はとにかく那奈さんに教えてもらったことを必死になって覚えた。
どんなに忙しくても弱音を吐かず、辛くなったときは星乃さんのことを思い出した。


『星乃さんの笑顔が見たい』


いつしか僕にとってただひとつの目標になっていた。




「そういえば、彼女とは連絡取ってるの?」
ある日の帰り道。那奈さんは星乃さんのことを尋ねてきた。
「ええ、一応…」
「気のない答えね」
「実は…」
僕はこの前の出来事を那奈さんに話した。
電話の先で彼女が泣いていたこと。何もできない自分に腹が立ったこと。電話を切ってから、早くお金を貯めて会いに行こうと考えたこと―――すべてを聞き終えた那奈さんは、僕の目を見つめて言った。
「そういうことだったのね」
「…え?」
「最初の1週間と全然人が違うからどうしたのかな、と思って」
「……」
「今度の3連休、彼女のところへ行って来たら?」
「でも、お店は…」
「彼女を悲しませるつもり?」
「う…」
言葉が出なかった。
星乃さんの悲しそうな声がフラッシュバックして、胸を締めつける。
あの声をもう一度聞くなんて…僕にはできない。
「本当に、いいんですか?」
「心配しなくていいから!そのかわり…」
「そのかわり?」
「帰ってきたらいっぱいお楽しみが待ってるからね」
何かを匂わせるような含み笑いをした那奈さん。
「店長には私から言っておくから、しっかり彼女を見てあげるのよ」
「は、はい」
那奈さんは何度か軽く僕の肩を叩くと、走って帰っていった。


輝日南の街は銀杏や楓たちが色づき始め、秋の風情を際立たせていた。
慌しく過ぎていった10月が終わり、晩秋へと季節は進もうとしている。
「光一、ちょっといいか」
3連休を間近に控えたある日。帰る前に給料が入った袋をマスターから受け取った。
中を見ると、4枚の大きな札が入っている。
「これは…?」
「少し上乗せしといてやったから」
「マスター…」
「礼はいらねえから、早く帰って準備しろ!」
「は、はいっ!」
(ありがとう、マスター…!)
初めての給料を受け取った僕は喜ぶのも束の間、星乃さんのもとへ行く準備を進めた。
星乃さんに逢いたい―――はやる気持ちは荷物と一緒に鞄に詰め込んだ。
「これでよし、と」
必要なものは全部集め、枕元に置いた。


家族が寝静まった3連休初日の早朝。僕は誰にも気づかれないようにひっそりと家の鍵を開け、サドルに跨った。
駅前の自転車置場に自転車を止め、学割証を握り締めながら輝日南駅の窓口で切符を買う。
(蛍ヶ浦行き…これか)
手にした往復2枚の切符。蛍ヶ浦行き―――僕にとっては「想い人行き」の切符。
電車を待ちながら、遠い場所にいる星乃さんのことを思い浮かべる。
(僕がいるって知ったら、どんな顔するかな…)
星乃さんの驚く表情を想像して、少し吹き出した。
『1番ホームに特急、蛍ヶ浦行きが到着いたします』
笑いをこらえながら赤いラインが入った一番列車に乗り、彼女の待つ街へと向かった。


『まもなく終点、蛍ヶ浦に到着します―――』
車掌のアナウンスで目が覚めた僕は、誰も乗っていない車両で一人身支度を整える。
鞄の中をもう一回確認して、肩ひもを肩に引っ掛けた。
肩を上げたついでに時計を見る。ちょうど正午になろうというところだ。
ドアが開いてホームに降り立つと、独特の香りが鼻をくすぐった。
改札を出ると、その元が何かがわかった。
(…キンモクセイか)
橙色に輝く花たちが僕を迎えている。
綺麗に並べられた並木。その横を歩きながら、鞄から地図を取り出す。
星乃さんのいる場所…休みの日なら、きっとあの場所にいるはず。
あらかじめ調べておいたあの場所に、地図を見ながら足を運んだ。


駅を離れ、緩やかな坂を上り、立ち並ぶ家々の前を突っ切る。
小さい森のある神社を抜けた先に、レンガ造りの建物が存在感を示すように立っていた。僕の直感が示していた場所―――蛍ヶ浦図書館。
(きっと、ここにいるはず)
中に入り、閲覧席に真っ先に向かう。
白髪の老人が新聞を読み、サラリーマン風の人が分厚い本を少しずつめくっている。
星乃さんは…。
(あ…)
彼女は本を何冊か机に置きながら、文庫本に目を向けている。
椅子に手提げ鞄を引っ掛けながら、黙々とページをめくっている。
僕は彼女のそばまで歩み寄り、声をかけた。
「隣、いいですか」
「……」
返事がない。
星乃さんが読書に夢中になっているときはいつもこうだ。
(そうだ…)
前にやったような大声を出すわけにはいかない。
そこで僕は彼女が気づくように、わざとふたつ離れた席で本を読むことにした。
気づかないかもしれない…そういう気持ちはどこにもなかった。
椅子に座り、彼女の横顔を眺めてみる。
(星乃さん…やっぱりかわいいな…)
机に肘をつきながら見る彼女の顔。
ほんの1ヶ月離れていただけなのに、何年も会っていなかったような感覚に襲われる。
(ん~…)
電車で寝たのでは寝足りないのか、また眠気が僕を包み始めた。
狭まってゆく視界に映る星乃さんの横顔が、少しずつぼやけていく。
頭の上で睡魔がとどめを刺そうとするのが見える。
…睡魔はその「とどめ」をすぐに刺してきた。
目の前が何も見えなくなった瞬間、僕の体が一瞬宙に舞う。
どすっ…鈍い音を上げて、僕は床に倒れこんだ。
「いてて…」
薄れかけた意識が体を打った衝撃ではっきりと戻る。
起き上がろうとして目に入った靴を見て、僕は我に返った。
(はっ…!)
音に気づいて僕の元に近寄った彼女は、目を丸くして驚いていた。
「どうして、ここに…?」
小さく声を震わせながら、星乃さんは僕に声をかけた。
「いや、ちょっと…ね」
勢いよく転げ落ちたせいで腰が痛い。
強打した腰をさすりながら、彼女の顔を見上げる。
「…クスッ」
星乃さんは口を手で押さえながら、軽く吹き出していた。
驚かせて笑うつもりだったのに、すっかり立場が逆になってしまっていた。


「まさか、来てくれるなんて…」
図書館近くのコーヒーショップでサンドウィッチを囲みながら、1ヶ月ぶりに会った喜びを噛み締めた。
「バイト代が入ったから、蛍ヶ浦まで行ってみようかな…って思ったんだ」
「でも、本当に驚いたわ。すぐ近くにいるなんて思いもしなかったから」
「実を言うと、星乃さんをびっくりさせようと思ったんだ。だからわざと電話もしなかった」
「そうだったんだ」
「でも眠気には勝てなくて…」
「眠気に勝てないって、相原君らしい」
「あはは…」
輝日南にいたときもこんなやり取りがあったような気がした。
確か、ペアウォッチを買ったときだったような…。
「そういえば、時計…」
「ちゃんとつけてるわ。ほら」
白い薄手のカーディガンの袖をめくり、彼女は時計を見せてくれた。
その腕に並ぶように、僕も腕を出して時計を現す。
お互いの時計を見せあって、2人の繋がりを再確認する。
「もう1ヶ月たったんだね」
「そうね…」
ちょっとだけ思い出に浸ろうと口にした言葉。
それを聞いた彼女は少し俯いて、僕から視線を外した。
(あ…)
彼女の表情を見た僕は、この前の電話のことを思い出した。
『一人が…辛いの…』
号泣しながら電話口で訴えていた星乃さん。
この1ヶ月、いろいろなことがあったに違いない。
星乃さんは慣れない土地で頑張ろうとしている。
何も口にはしないけれど、苦労している…。
「星乃さん」
「何?」
「サンドウィッチ食べたら、この街を案内してもらえないかな?」
「うん、喜んで」


「今日は何時まで大丈夫なの?」
「輝日南行きは5時ごろの電車がラストだから、それまでなら」
「そう…」
哀しそうな表情が抜けない星乃さん。
僕は彼女のこんな表情を見るために、ここまで来たわけじゃない。
だから思い切って外に誘ってみたけれど…。
「……」
「……」
2人並んで歩きながら、無言の時間が少しずつ長くなっていた。
(…そうだ)
「星乃さん」
星乃さんの振り向きざまに僕は彼女の腕を取り、僕の腕と交差させる。
これで少しは変わってくれないかな…と期待を込めた。
「え…」
一瞬拍子抜けした表情を浮かべたあと、彼女は頬から紅色の葉を浮かばせた。
「相原君…」
僕の腕に添うように、身体を寄せる星乃さん。
「こうやったら、カップルみたいに見えるんじゃない?」
「もう…恥ずかしい…」
下を向いて赤らめた頬を隠そうとする星乃さんがいじらしい。
「でも…嬉しい」
固まっていた彼女の頬がようやく緩む。
心の中で拳を握りながら、2人の時間を楽しもうと思った。


「ここは涼しくて気持ちいいの」
星乃さんが連れてきてくれたのは、小高い丘の上にある公園だった。
造りは違うけれど、まるで丘の上公園…。
「なんだか、丘の上公園に来たみたい」
「私もここを見つけたとき、そう思ったわ」
並んだブランコに腰を下ろして、砂場やすべり台で遊ぶ子どもたちを見つめる。
あんなこともしてたね、と話しながら笑顔を見せる星乃さん。
「ここから学校が見えるのよ」
「え?どこ?」
「あの山の麓にあるのが今行ってる学校なの。裏山があって、時々散歩するのよ」
「裏山かぁ。学校にそういうのがあるってすごいね」
「この地方だと、うちの学校ぐらいしかないんだって」
「へー」
2人でブランコを立ちこぎしながら、新しい学校の話で盛り上がった。
ブランコをこぎながら感じる風が気持ちいい。
「そうだ」
僕はブランコから降り、星乃さんの後ろについた。
「え…?」
「行くよっ」
「きゃあっ」
星乃さんの腰を押して、わざと勢いをつけた。
好きな人にイジワルをする…いまどき小学生でもやらないようなことだけど、衝動的にやってみたくなった。
大きな声を上げて驚く彼女を見るのが、少し面白かった。
その星乃さんも、悲鳴を上げながらこわばらせていた顔を徐々に和らげていく。
勢いがある程度ついたところで僕はブランコから離れ、星乃さんの顔が見える場所に位置取った。
「楽しかったー」
「もう…」
「ごめんごめん」
ブランコの上で困った顔をしながら、僕を見つめる星乃さん。
でも、まんざらでもないみたいだ。怖がってるというか、むしろ楽しんでるふうに見える。
「こんなにブランコこいだのって久しぶり」
「そう?」
「ブランコに乗ったのって、小学校のときぐらいしか覚えてないもの」
「確かに。僕も久しぶりだな」
「でも…ブランコがこんなに気持ちいいなんて思わなかったわ」
「気持ちいい?」
「風を切るのって、涼しくて気持ちいいの」
ブランコの上で時々笑顔を見せながら話す星乃さん。
輝日南から来てよかった―――そう強く感じた。


公園を後にした僕たちは、星乃さんの家を経由して駅に向かうことにした。
道中、ところどころにどんぐりが落ちているのを見つけた。
「どんぐりか…よく拾ったなぁ」
「丘の上公園のあたりはどんぐりの宝庫だものね」
「そうそう。よくあの辺のクヌギの木の下で落ちてくるのを待ってたんだ」
小さい頃を思い出しながら、どんぐりを手に取って2人で盛り上がる。
寄り道…というには何だけど、楽しい時間がまた増えていた。
拾ったどんぐりを片手で握り、もう一方の手はお互いの手を握る。
小さな子どもみたいだけど、全然違和感を感じない。
星乃さんと一緒にいられることが、恥ずかしさとかその類の感覚を遮っていた。
「ここが私の家なの」
どんぐりを拾った場所からすぐのところに、星乃さんの家はあった。
公園で長居したり寄り道をしたこともあって、すっかり日は傾いてしまっている。
上がっていきたいけれど、もう時間はない。
仕方なく家の場所だけ把握して、駅へと向かった。


蛍ヶ浦駅に着くと、再びキンモクセイが僕たちを迎えた。
風や雨で舞い落ちた花弁が足元を彩って、絨毯のようになっている。
その上を2人で歩く。
「ここのキンモクセイ…すごいね」
「キンモクセイはこの街のシンボルなの。だからこんな風に並んでるんだって」
「そうなんだ」
改札からまっすぐに伸びる歩道に並ぶキンモクセイの並木は、兵隊のように綺麗に整列している。
そして、心地いい匂いを僕たちの鼻に与えてくれる。
「うちの学校の校章もキンモクセイなの」
そう言って星乃さんは、金属で作られたバッジを僕に見せてくれた。
「これ、相原君にあげる」
「え?でも…」
「私ならもう1つ持ってるから大丈夫」
「わかった。じゃあありがたくもらって行くよ」
受け取ったバッジを鞄にしまいこみ、腕時計に目を向けた。
(あと10分か…)
刻一刻と迫る別れの時間を目前に突きつけられる。
星乃さんも時計を確認すると、また哀しそうな表情を浮かべていた。
「相原君…」
「何?」
「もう、行っちゃうのね」
「…うん」
「まだ、いっぱい話したいのに…」
「……」
「いっぱい…甘えたいのに…」
「…ごめん。日帰りじゃなかったら、星乃さんにそんな思いさせなくて済んだんだけど」
今にも泣きそうな星乃さん。それが僕には悔しくて、歯を食いしばり、拳に強く力を込めた。
泊まりがけ―――せっかくの連休だし、そうすればよかったのかもしれない。
ただ、したくてもできない…。
(でも、これくらいなら…)
僕は星乃さんの体を抱き寄せた。
「あ…」
「『さよなら』は言いたくない…」
「…うん」
「まだ、一緒にいたいんだ」
「私も…相原君とまだ一緒にいたい」
「星乃さん…」
繋がり合う2つの気持ちが、2人のより強い想いで繋がっていた。
「『さよなら』っていうのは、また会えますようにって気持ちを込めて言うものだと思う」
「……」
「だから、私たちにはただの別れの言葉じゃないの。ただ『さよなら』だけじゃ、悲しいから…」
「……」
僕の胸の中で呟く星乃さんの一言一言が胸に突き刺さる。
別れる辛さは、彼女がよくわかっている。それを僕も受け止めたい。
『まもなく3番ホームより特急、輝日南行きが発車いたします』
無情すぎるアナウンスが僕たちの間に割り込んでくる。
「もう、行かなくちゃ…」
「うん…」
「また、電話する」
「私も。手紙も書きたいの」
「わかった」
『トゥルルルルルルルル…』
発車を知らせるベル。
また会いに来るから―――僕は彼女の唇を一瞬だけ奪った。
「あ…」
「それじゃ、乗るね」
彼女の唇の感触もほどほどに僕は電車に駆け込んだ。
直後に背後から空気音がして、ドアが閉められる。
ホームには唇に指を当てながら僕を見つめる星乃さんの姿。
その彼女を僕はドアの窓越しに見つめ返す。
(きっとまた、星乃さんのそばに戻ってくるから)
輝日南に向かう電車の中で、彼女に伝わるように強く念じた。
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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

コメント

初めてコメントさせていただく、ツバメエースと申します。
今回、ひとつ違和感があるので言わせてもらってよろしいでしょうか?
電車で蛍ヶ浦へ行く時の『手にした往復2枚の切符』と、帰るときの『僕は彼女を待たせて切符を買いに向かった。』
・・・とありますが、相原は行くときすでに帰り用の切符を買っているのに、もう一回買う必要があるのでしょうか?
そこが少し分からなかったので、コメントさせていただきました。すみません。


4話目を楽しみに待っています。
【2006/11/26 21:12】 URL | ツバメエース #g54.wAi6[ 編集]
コメントありがとうございます。
…すみません。私の校正ミスです。
先ほど修正しておきました。


言われなかったら全然気づかなかったです。ありがとうございました。
【2006/11/27 03:30】 URL | Author #y/MN7pSg[ 編集]

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