キミキス*Kimikiss SS図書室
PS2ソフト「キミキス*Kimikiss」(©2006 ENTERBRAIN,inc.)のメインヒロイン・星乃結美をメインにした創作小説図書室です。

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伝わらない想い~Time Limit~ -20-

学園祭を控え、金曜の授業は午前中だけで打ち切られた。
私は午後の空いている時間を使って、やり残したことを全部済ませることにした。
お世話になった先生に挨拶をした。
図書委員のみんなに挨拶をした。
花壇の花たちに、図書室の本たちに、私が関わったすべてのものにお別れを言った。
慣れ親しんだ人やものと離れるのは名残惜しい。でもそれは、たとえ花でも本でも同じ―――そう言い聞かせて、涙は見せないようにした。
でも、彼と離れることだけは「名残惜しい」という言葉では片付けられない。
彼のことを考えると、後ろ髪を引かれるような…むしろ力いっぱい引っ張られるような感覚になる。それは私の心をそのまま表しているし、もしかしたら彼の心も表しているかもしれない。
(このまま輝日南に残りたい…)
叶わないこととわかりながら、そう強く願った。


―――そして、運命の日。変わることのないタイムリミットを迎えようとしていた。
「おはよう、星乃さん」
「おはよう」
挨拶をしてきた相原君は、吹っ切れたような顔をしていた。
そんな彼に少し安心した私は、これから始まる最後の日に臨んだ。
朝礼が始まり先生に呼ばれた私は、黒板の前でクラスの人たちに転校することを伝えた。
「今までありがとうございました」…挨拶を終えた途端、こらえていたものがじわりと目頭に伝わった。
「星乃さん、今までありがとう」
「あなたのこと、忘れないからね」
席に座った私を囲むクラスの人たちの目にも、涙が浮かんでいた。
「最後だし、学園祭を一緒に回ろうよ」
「私も!」
「俺も行く!」
次々とみんなからの誘いを受ける。でも、私には約束がある…。
「みんな…ありがとう…。でも私…」
私は彼のほうを向き、彼の様子を窺った。
彼は私をちらりと見ると、表情を変えずに席を立って教室の外へと出てしまった。
(あ…)
人混みの中心にいた私は、そこから抜け出すように彼を追いかけた。
「ごめんなさいっ…!」
誘ってくれたみんなに何度も心の中で謝りながら、私は廊下に出た。
真っ直ぐに伸びる教室前の廊下には、もう彼はいない。
(相原君…どこに行ったの…!)
どこにいるという宛てもないまま、私は走って彼を探した。
追いかけてくるクラスの子を振り切り、拭いても拭いても流れる涙に視界を遮られながら、華やかに彩られた廊下を駆け抜けた。
彼に…相原君に会いたい。ただそれだけで、慣れないことに足が震えても、つまづいて転んでも走り続けた。
(どこにいるの…)
彼の姿が見えなくて、途方に暮れた。でも足を止めると涙がとめどなく溢れてきそうで、足を止めようとは思わなかった。
そして、1ヶ所だけ学園祭で使われていない場所にたどり着いた。
(図書室…)
私が1年生の頃からずっと親しんできた場所。彼と知り合ったのも、ここだった…。
ドアに手をかける。すると、閉まっているはずのドアが開いていた。
ドアを開けると、そこには相原君が本を持って立っていた。
「相原君…」
「ごめん。星乃さんに薦められて読んだ本、まだ返してなかった…」
「……」
彼が教室を出た理由がわかった。
最後の日に、こんな仕事があるなんて。
「せめて、最後は星乃さんに渡したいと思って…」
「…うん。わかったわ」
私はカウンターに入り、いつものように手続きの準備をする。
2人きりの図書室。2人だけの空間が、この広い図書館で出来上がっている。
いつかの映画で見たようなシチュエーションに酔いそうになりながら、私は彼から本を受け取った。
「ごめんね、いきなり教室を出て行って」
「…ううん、いいの」
彼とこうやって2人でいられるなら、私はそれだけで満足。
2人の時間を共有できるこの時間が私にとっては貴重なもの。
こうやって輝日南高校で過ごすことは、もうないのだから…。
「もう、ここに座ることもないのね…」
座り慣れた椅子を撫でながら、見慣れたカウンターからの風景を見渡す。
もう少しここに座っていたくて、何だかセンチメンタルな気分になった。
『それではオープニングセレモニーを始めますので、生徒の皆さんは体育館に集合してください』
「…そろそろ、行かなくちゃね」
「うん…」
学園祭の始まりを知らせるアナウンスは、センチメンタルな気分を加速させた。
「相原君…」
「何?」
「もう少し、ここにいたい…」
「……」
輝日南での最初で最後のわがまま。
『相原君と一緒にいたい』―――私の心からの願いだった。
あと何時間もすれば一緒にいられなくなる…だから、せめてこの時だけは2人でいたかった。
「星乃さん…」
「行かなきゃいけないのはわかってる。でも、相原君と一緒にいたいの」
「……」
私の言葉に彼は一瞬戸惑うような表情を見せた。
私は椅子から立ち上がり、彼の手を両手で握り締めた。私の想いが伝わるように、強く、強く握り締めた。
「…私は、好きな人とここで知り合えて嬉しかった」
「……」
「1年生のときから同じクラスだったのに、話すことなんてなくて…目が合っても話しかけてくれなくて、嫌われてるのかなって…」
「……」
「だから…話しかけてくれたとき、嬉しくて…私……」
言葉が上手くつながらなくて、涙がまた浮かんでくる。
すると、彼は私をカウンター越しに抱きしめた。
(あ…)
「星乃さん」
「相原君…」
「星乃さんの気持ち、よくわかったよ。僕も、星乃さんのことが好きだ」
一度聞くことを拒みながら待ち焦がれていたこの言葉を、ようやく聞くことができた。
伝わらなかった…伝え切れなかった想いが、伝わった。
「うん…ありがとう…」
「だから、転校しても僕のことを忘れないで欲しい」
「忘れるなんて…できない…」
彼の背中に回した手にぎゅっと力を込めた。
離したくない。離れたくない。ずっとこのままでいたい…。
「私はそばにいられない…けれど、心はあなたのそばにずっといるわ」
「ありがとう」
そして彼は、私の唇にそっと彼の唇を触れさせた。
その瞬間、流した涙は色を変えて、嬉し涙になっていた。
「じゃあ、学園祭…行こうか」
「うん」
私たちは手を繋ぎ、セレモニーで誰もいない廊下を2人で歩いた。


その後、体育館に行かなかった私たちは担任の先生にひどく叱られた。
先生に叱られるなんて初めてだったけれど、彼と一緒にいられたことが私にとっては何にも換えられない大切なもの。
相原君と一緒…それが私にとって最高の幸せ。
その彼と、転校しても心で通じ合える。
「旅費貯めて、休みになったら会いに行くよ」
帰りに彼が言ってくれた言葉を胸に、私は輝日南から見知らぬ土地へと旅立った。






『叶わぬ恋なら、いっそ諦めてしまえばいい』
人はそう言うかも知れない。
でも、私はそうは思わない。
もしあの時諦めてしまっていたら、彼と知り合い、会話を交わすこともなかった。
そして、彼への想いを胸の内に秘めたまま、見知らぬ土地へと旅立っていた。
言葉で上手く伝えることはできないかもしれない。
態度ででも、上手く伝えることはできないかもしれない。
それでも、私は不器用なりに背伸びして、彼の恋人になるという幸せをつかむことができた。


伝わらない想い…それはきっといつか、想いを寄せる人に伝わる―――
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