キミキス*Kimikiss SS図書室
PS2ソフト「キミキス*Kimikiss」(©2006 ENTERBRAIN,inc.)のメインヒロイン・星乃結美をメインにした創作小説図書室です。

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遠い街のどこかで~17 years old~ -5-

お久しぶりの長編第5話。


結美も光一も3年生になりました。
受験と恋愛。成就することを切に願って。
++++++++++


「結美、冷蔵庫のニシン取って」
「はーい」
蕎麦を茹でるお母さんのそばで私はお手伝い。
ツンとした冷蔵庫の冷気を感じながら、目当てのお魚を手に取る。
テレビから流れ始めた音楽に耳を傾けながら、今日の朝を思い出す。
年末という感覚を喚起させる“年忘れ”という言葉。
新聞のテレビ欄を埋め尽くすようにどっかりと居座っていた。
去り行く年に別れを告げる、という意味が込められているのだろう。
けれど、“忘れ”という言葉は好きになれない。
私にとってこの1年は、忘れたくない年だったから。


++++++++++


蛍ヶ浦に来てから初めての春。
始業式の帰り道に寄った趣のある平屋の文房具屋さんで5色入りの封筒を見つけた。
そのうちのある色の封筒が、私の目に留まった。
若草色。
4月にはもってこいの色だった。
輝日南より寒いこの街も春色の風情を醸している。
外の葉の色と重ね合わせ、遠い地の彼に手紙を書いた。
『ゴールデンウィークにそっちへ行くよ』
彼からの返事は私が手紙を出したちょうど1週間後にきた。
それに呼応するかのように、通学路の道が少しずつ桜色に染まり始めた。
授業の合間の移動時間で校舎裏の桜をちらりと見る。
枝を彩っている花びらが風に流され、新緑がかっていた。
(もうこんな時期なのね…)
蛍ヶ浦もすでに桜の季節が過ぎようとしていた。


4月から私は進学クラスに入ることになった。
看護師、国語の専門家、小説家…夢や希望はいくつかあるけれど、たいていは大学に進学すれば叶う可能性があるもの。
だから、3月にあった進路調査には進学希望と出しておいた。
進学クラスには頭のいい“あの3人”がいたけれど、教室には私が転校してきた頃のような冷たい空気はなかった。
周りが融和的になったのか、私が鈍感なのかはわからないけれど、関わることのない人たちのことは私にとってさして重要なことじゃない。
むしろ、相原君のことさえ考えていられればそれでいい。
定まっていた私のスタンスがより確かなものに変わっていくのを感じていた。


桜の木がすっかり新緑に覆われてしまった頃、彼はこの地にやってきた。
前に会ったときは厚手のコートを身に付けていた彼は、薄手の黒いジャケットを羽織ってもう春の装い。
私は彼の手を取り、彼の「どこ行こうか」という質問に「図書館に行きたい」と即答した。
蛍ヶ浦で落ち着いて勉強することのできる場所は、図書館くらいだった。
図書館の自習スペースに着くといつものように鞄を置いて座席を確保し、ノートと参考書を広げる。
互いの参考書が違うことに少しばかりショックを受けたけれど、それぞれの学校指定の参考書だから仕方なかった。
「今日は英語から?」
「そうね、やっぱり英語は必須だし」
その場で彼はセンター試験を目指すと言った。
私もセンター試験をしばらくの目標にすることにしていた。
リスニング以外はこの場で一緒に勉強ができる。
リスニングにしても、同じ教材を使えば一緒に勉強ができる。
その事実がわかったことが嬉しかった。


「1時間目、終了」
受験生の私たちにとって、1時間目は90分という意味。
90分は人間の集中力がギリギリもつ時間だけれど、私にはまだ余力が残っていた。
でも、隣の彼は少し息が上がっている様子。
「ちょっと休憩する?」
「…うん」
普段はもっと集中できるんだけどな、と苦笑いする彼。
何が原因かはうすうす感じている。だから私も苦笑い。
「星乃さんって、将来どうするつもり?」伸びをしながら彼が私のほうを向く。
「どうしようかまだ考えてるところ。本が好きだから文学部に行くのもいいんだけれど、夢もあるし…」
「夢?」
「うん。看護師になりたいなって思ってて」
「看護師かぁ」彼は妙に頷いて納得する。
「星乃さんなら、きっとなれるよ」
「本当?」
「優しいし、人の世話はよくしてくれるし、そばにいるだけで癒してくれるし…」
「そ、そんな、私なんて…」
そばにいるだけで癒してくれるのは私ではなく、彼のほうなのに…。
私にとっては彼の存在が癒しで、彼にとっては私の存在が癒し。
お互いが繋がりあっていることを確認する。
「…ね」
「何?」
彼を廊下に連れ出し、周りに誰もいないことを確かめて背伸びをした。


不意打ちのキス。


唇を当てた場所を指で撫でながら呆然とする相原君を見て、心の中でクスリと笑ってしまう。
キスするときはほとんど彼からのキスだった。
ほとんどがお互いの気持ちを確かめてのキスだった。
キスは私にとって、気持ちを伝えるためにあるひとつの手段。
だから、いつかのように私からもキスをしたかった。
「……」
「……」
言葉が見つからず視線を泳がせる彼を見て、私も次第に恥ずかしさがこみ上げてきた。
「…戻りましょ」
絞るような声で、私は彼に席に戻ろうと促した。


「まさか星乃さんからキスされるなんて思ってなかった」
輝日南に帰ってから私に書いてくれた手紙で、彼はそう綴っていた。


++++++++++


もう煮えたかな、というところで蕎麦を水切りして丼に流し、その上からニシン入りのダシを流す。
「歌合戦、始まったね」
「ええ」
お父さんとお母さんの声が聞こえた。
彼もこの番組を見ているのかしら。
夕食の準備が一段落したところで、ふと意識を輝日南へと向けてみた。
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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

コメント

久しぶりの長編 早速よませていただきました!

時の流れに呼応して、それぞれの成長とこれからの未来に向けての動き。
どきどきとどうなるのかという心配なココロが沸いてきます。

おつかれさまです。
【2008/09/08 14:02】 URL | 子龍 #V4rYaZBU[ 編集]
どもです。


まだまだ2人の受験は始まったばかりです。
これからですよ。
【2008/09/20 00:13】 URL | Author #y/MN7pSg[ 編集]

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『キミキス』『TLSS』(PS2)の二次創作をやってます。
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