キミキス*Kimikiss SS図書室
PS2ソフト「キミキス*Kimikiss」(©2006 ENTERBRAIN,inc.)のメインヒロイン・星乃結美をメインにした創作小説図書室です。

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文月の一日 -2-

文月ってタイトルなのにもう葉月になってしまった(汗
暑中見舞いがてらの後編・第2話。




皆様、お体にはお気をつけくださいませ。
++++++++++


川田先生の笑みを見てホッとする僕。
張り詰めた空気が弛んで、和やかな空気が訪れる。
けれど、その和やかさを感じたのは束の間だった。
「相原君」
「はい」
「さっき、何してた?」
空気を裂くような鋭い声が先生から発せられる。
弛めていた頬をまた締めて、胸の前で腕を組んで、先生は僕に迫った。
やっぱりさっきのことを咎められるんだ…と直感した。
「あ、あの…」
先生の胸を見ていました、とは口が裂けても言えない。
答えを模索しようと寝起きの思考回路をフル回転させる。
…でも、うまく答えが出ない。
かえって組んでいる腕の向こうの膨らみに意識が向いてしまう。
「そうよね、男の子だものね」
(う…)
ちらりとその膨らみを見た後で発せられた、呟くような小さな声。
その素振りは僕の頭を吹き飛ばすには十分すぎた。
先生は反応できない僕を見て、納得したように組んでいた腕を解いた。
言葉が出なかった。
叱られたことが恥ずかしかった以上に、気付かれていたことが恥ずかしかった。
「気付かないって、思ってた?」ベッドに手を突いて僕に迫る先生。
「い、いや、そんなことは…」
(どんなカミナリを落とされるのだろう…)
きっとトドメを刺される。
今度はあまりに怖くて先生の顔を直視できず、俯いた。
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、先生は静かな口調で話し始めた。
「あんまりじろじろ見ちゃだめよ。夏場は女の子が薄着になるけれど、見せるために薄着をしてる子なんて一部だけなんだから」
「は、はい…」
自分の心を見透かされていたようなお説教を浴び、条件反射で肩をすくめた。
「まさか、他の女子の前でこんな恥ずかしいことをしてはいないでしょうね?」
「ま、まさかそんなっ…」
細目がちに僕を見る疑わしげな先生の表情。
真っ向から否定しようと語気を強めようとしたけれど、口にうまく力が入らない。
心の中で歯痒い思いをする。
「してるの?してないの?」
「しっ、してないです…」
本当ね?と詰問する先生に何度も強く頷いて返し、やっと僕は解放された。
一方で、詰問を終えた先生は手のひらを返したように表情を和らげた。
「やっぱり水着以外だと目立っちゃうわね。気をつけなくちゃ」
ジャケットの胸の辺りを正しながらポツリとこぼす先生。
僕はどうしていいかわからず、ただただ呆然としていた。
「もし『してる』って答えたら、あの子への手紙に書いちゃおうって思ったのにな」
今度は少し首まわりの弛んだシャツを正しながら、先生は冗談ぽく言った。
「あの子って?」
「あなたの心の中にいる人よ」
ひょっとして―――。
先生に恋人の名を告げると、先生は返事をする代わりに笑顔を作りながら深く頷いた。
「彼女、もう暑中見舞いを送ってきてくれたんだから」
先生は持っていた鞄から1通の葉書を取り出し、僕に見せてくれた。
そこに記されているのは恋人の綺麗な字。
葉書の下地には僕も見たことのある彼女が住む街の光景が、水彩画のような絵で描かれていた。
「あなたのところには来てないの?」
「はい。手紙も書くんですけど、普段の会話はメールが多くて…」
「その話は聞き捨てならないわね、国語の教師としては」
厳しい表情をされてまた身構える。
「相原君、『月の異名』って覚えてる?」
「はい。古文の先生にテスト漬けにされたのを覚えてます」
「あの先生らしいわね」先生の口元が緩む。
「7月は何て言った?」
「文月です」
正解、と先生はひとつ笑顔をこぼす。
「私が何を言いたいか、わかるかしら?」
「い、いや、全然…」
月の異名と手紙にどんな関係があるのか、さっぱり見当がつかない。
「そういうところは鈍いのね」
恐ろしさを含んだ笑みを浮かべたまま、先生は立ち上がってカーテンを開けた。
「文の月、と書いて文月。古文の授業でやってない?」
あっ、と思わず声を出した。
「やっと気付いたようね」
「すみません…」
「気付いてくれたならいいわ」
窓の外の景色を見た先生は、くるりとその景色に背を向けて僕のほうを向いた。
「手紙を書いてる相原君に言うのは野暮だと思うけれど、文字を書くって大事なことなのよね」
「……」
「昔みたいに和歌のやり取りで気持ちを伝えなさい、とは言わない。けれど、メールだと趣に欠けるような気がするの。
手軽っていうのはいいことよ。私だってメールくらいはするから。でも、私はできるだけ自分の字で気持ちを伝えたいな、って思ってる。
そのほうがより気持ちが伝わりやすい感じがするし」
先生の言うとおりだと思った。
実際、僕だってメールで大事なことを告白するのには躊躇する。
「星乃さんは本が好きじゃない?彼女は手紙のよさも何かで読んでいるはずよ。
彼女が手紙を書いてくれるのは、きっと手紙や字を書くことが大事だと考えてるからだと思うの」
先生の声を聞きながら、遠く離れた恋人の言葉を思い出す。
彼女は日記を書くのが日課だと言っていた。
その根底にあるものは、先生が言うことなのかもしれない。
「相原君?」
「え、あ…すみません」
「星乃さんのことを思い出したんじゃない?」
「…はい」
またも考えていたことを気付かれていた。
でも今度は恥ずかしくないことだ。
「『遠く離れていても、心はずっとあなたのそばにいる』」
「えっ?」
「いつだったか、彼女がそう手紙に書いていたわ。相原君も聞いたことがあるの?」
「はい、まあ…」
学園祭の後、二人っきりで行った丘の上公園のことを思い出す。
とうとう離れてしまうんだ。そんなときに星乃さんの口から聞いた言葉、そのものだ。
「いい言葉よね。あの子、きっと今もこの言葉を胸に秘めてるような気がするわ」
また、言葉を失った。
淋しい思いをしている。それは星乃さんの近くにいる自分がよくわかっていたはず。
なのに、それを汲み取れていない自分が悔しかった。
「ごめんなさい、すっかりお説教になっちゃった。あなたは病人なのにね」
「い、いえ、もう大丈夫ですから…」
お邪魔したわね、と苦笑じみた表情を浮かべて先生はカーテンの外に出た。
僕は申し訳なくて、先生が保健室を去るとすぐに布団にくるまり横になった。
目からはどんな涙とも取れない、不思議な涙が溢れた。


次に目を覚ましたのはもう夕日が沈もうというときだった。
ふと思い立って鞄の中から便箋を取り出す。
幾重にも罫線が引かれた紙をじっと見つめる。
(帰ったら何か書いてみよう)
そう思った。
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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

コメント

ご無沙汰しておりますが、新作SS読ませていただきました。
無防備に誘惑しておいて『めっ』する川田先生が、何とも意地の悪いこと。

メールとかSNSとか普及したおかげで、最近確かに文字を書くことがおっくうになっちゃってますね。
年賀状でさえプリント屋さんに任せちゃってるし、小説は書くけど万年筆も原稿用紙も持ってないし。
そんな失われつつある物へのノスタルジィを感じさせる、結美afterでした。
【2008/08/11 00:08】 URL | 月見香倶夜 #-[ 編集]
ご無沙汰しております。
実はこの作品、ちょおまの川田先生エンド後のアフターストーリーとして書く構想もありました。実際、途中までは書けてるけれどまだ未完成だったり。
川田先生がちょっと意地悪なのは、根本にこんな理由があるからなんです。


>文字を書くことがおっくう
私もPCや外注業者を使うことが増えて、文字を書くことがかなり減りました。
文字は人類の文明のひとつの形なのにこれじゃいかんな、というわけで今回は「手紙(文字)を書こう」というメッセージを含めてSSを書かせていただきました。
そのメッセージが伝わっていて嬉しい限りです。


追記)
ブログで「文月の一日」をご紹介いただき、ありがとうございます。
【2008/08/12 00:37】 URL | Author #y/MN7pSg[ 編集]
かなりおそいですが・・・

お久しぶりです。
前後編あわせて読ませていただきました。
やはりさすがといわざるを得ないクオリティですね。
最近手紙なんて書いてないなぁと思いつつ読みました。
最後らへんはじーんときましたよ。

お疲れ様でした。
【2008/08/24 22:35】 URL | 子龍 #aIJc0RDc[ 編集]
お久しぶりです。
日記を毎日つけている(自称)結美にとって、手紙は当たり前なんですよね、きっと。


自分の字が汚くなりまくりなのが気になる今日この頃です。
字を書かなくなると手首が弱りますね(汗
【2008/09/04 23:14】 URL | Author #y/MN7pSg[ 編集]

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