キミキス*Kimikiss SS図書室
PS2ソフト「キミキス*Kimikiss」(©2006 ENTERBRAIN,inc.)のメインヒロイン・星乃結美をメインにした創作小説図書室です。

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遠い街のどこかで~17 years old~ -2-

3/14
ようやく第2話公開。
お待たせして本当に申し訳ありませぬ。


それから。
筆者しばらく多忙のため、月1ペースでの更新になるかもです。
要は今までのペースがしばらく続きますよ、って事ですね。
**********


「ごちそうさまでした」
食器を流しに置いてスポンジを取る。
朝食の片付けは休みの日の私の日課。
手を動かしながらカウンター越しに時計を見る。8時30分。
もうすぐね―――お皿を洗う手に自然と手が入る。
お母さんは私のそばで洗いたてのお皿を拭いてくれる。
リビングではお父さんの聞くラジオが肩身を狭そうにして小さなボリュームで鳴っている。
家族それぞれが、いつもと変わらない朝の一ページをめくっていく。
私を除いて。
「結美、そろそろ時間じゃない?」
「え…あ、そうね」
今日のことはお母さんに全部話した。もちろん、相原君のことも。
「あとはお母さんに任せて、支度しなさい」
「うん」
私は小走りで部屋に戻り、着替えを済ませた。
今日はクリーム色がかった白いコートに黒のロングスカート。
中にはコートとほぼ同じ色のセーターを着込んだ。
すっかりタンスとクローゼットの常連になっている服たちに、今日もお世話になる。
コートを纏いながら机に向かい、飾っている写真立てにそっと手をかざす。
(…今日も、会えるのよね)
彼の写真に心の中で唱えて、部屋を出た。
「それじゃ、行ってきまーす」
ブーツのチャックを締めながらキッチンにいるお母さんに合図する。
「“アレ”の材料、準備しておくからね」
「うん、ありがとう。お母さん」
お母さんにその予定を確認して、私は家を飛び出した。
アレ…というのは、夕方には輝日南に帰ってしまう彼へのちょっとしたお土産。
昨日のサプライズのお返しにはなるかもしれない、と思った。


蛍ヶ浦駅に通じる道には、相変わらずキンモクセイの並木が駅の改札まで並んでいる。
旬はとうに過ぎてしまったからその頃の風情はないけれど、この駅の名物であることに変わりはない。
夜中に降ったらしい雪が橙色の花の代わりに枝に白い色をつけていた。
(…5℃。寒いはずだわ)
駅前の電光掲示板には今の気温が示されている。
駅に来るまで軽く走ったから体は温もっているはずなのに、感じるのは冷たい空気。
ブーツを履いていても、ロングスカートの間から風が入り込んで足が冷える。
早く、彼に暖めて欲しい。
待ちきれなくて腕時計を見る。8時55分。
「星乃さん、お待たせ」
コートの袖を下ろしたところで、彼は申し合わせたように私に声をかけてきた。
思っていたことが伝わったのかな、と有り得ないことを想像する。
「おはよう、相原君」
「おはよう」
濃紺のロングコートをひらつかせながら、彼は手袋越しに私の手を握る。
―――あったかい。
昨夜みたいにぬくぬくとした部屋で過ごすのもいい。
けれど、彼から感じる生の温もりはまた別の味わいがある。
だから自然と手に力が入った。
「寒かった?」
「ううん、大丈夫」
「そっか」
握り返した手に何かを感じ取ったのかな…と思い、彼の顔を見る。
「ん?何か顔についてる?」
「ううん、そうじゃないの」
「…そう」
表情を変えない彼を見て、どうやら私の思い違いとわかった。
少し…がっかりした。
「そういえば、いい笑顔だったなぁ」思い出したように彼が呟く。
「えっ?」
「僕が声かけたとき、すごいいい顔してた」
「そ、そう?」
「うん」
自覚がないから、彼の言っていることが本当なのか見当はつかない。
ただ、彼の澄んだ表情を見ていると本当のことに思えてくる。
彼に“いい笑顔”を見てもらえたのなら、私はそれでいい。
ちょっぴり、恥ずかしいけれど。
「今日はどこ行く?」
「そうね…」
ほんの少し顔を空に向けて、空を巡る雲を見ながら思案する。
近くて寒くなくて、落ち着けるところ…。
「暖まれるところ、行かない?」
「どこかある?」
「ええと…いつもなら」
「図書館に行ってる」
彼の言葉が私を制する。
「あ…うん」
「じゃあ、今日もそうする?」
「えっ…いいの?」
「僕なら構わないよ。星乃さんの行きたいところなら」
私は言葉をなくした。
私の行動パターンがわかっているからこんな風に優しく言ってくれている、と思うと胸が痛む。
「ごめんなさい。前に来てくれたときも図書館だったのに」
「いいよ。星乃さんと一緒なら、それでいいから」
「…ありがとう」
レパートリーの少なさに悲しんだのか、それとも彼の優しさに触れて感極まったのか。
涙腺の奥からこみ上げるものを感じて、無理してこらえた。
そのかわり、彼の手を握る自分の手にその想いを流し込んだ。


**********


「ふー」
彼が伸びをしながら声を発したのに気がついたのは、お昼を少し回ったところだった。
図書館に来た私たちは閲覧机に座り、それぞれが探した本を読んでいた。
その間、会話らしい会話を交わした記憶はない。
どうやらお互い本に夢中になっていた様子。
声が聞こえたところで、私も本を持つ手を置いた。
「相原君、変わったわね」
「そう?」
「うん、ずっと集中して本を読んでたみたいだから」
私が輝日南高校の図書委員をやっていた頃、彼はめったに図書館に現れなかった。
それがほんの数ヶ月の間にこの変化。
図書委員になった、というのは聞いたけれど、こんなに変わる…否、変わってくれるなんて。
「星乃さんのおかげだよ」
「えっ?」
「星乃さんがいなかったら、本の魅力にはずっと気づかなかっただろうから」
「相原君…」
私が図書委員をしていたことが彼を変えるきっかけになった。
それが、すごく嬉しかった。
「これからどうしようか?」
「そうね…」
壁掛け時計を見ながら、またひと思案。
アレをするなら、帰るにはちょうどいい時間かもしれない。
「あのね、相原君」
「何?」
「今日は何時の電車で帰るの?」
「この前と同じ電車のつもり。それだと理由がつけられるから」
「そう。それなら…いいの」
「でも、電車の時間がどうかした?」
意外な質問だったのか、訝しげに私を見つめる彼。
「ううん、なんでもない」
浮かべた表情に驚いて、いい言葉が見つからない私。
直接「家に行く」と言うのは味気ない。でも…。
時間は限られているのに、こんな時の策を練るのは相変わらず苦手な私がいた。
その場で考えること数分。
結局、「ご飯を一緒に食べたい」と言って彼を外に連れ出した。
苦しい言い訳なのはわかっている。
だから罪悪感と「彼に“アレ”を見せてあげたい」という思いが交錯して、何ともいえない気持ちを抱えながら歩いた。
10分ほど歩いて、目的地に到着。
「ここは…」
「そう、私の家」
去年の秋に相原君が初めて蛍ヶ浦に来たとき、時間がなくて佇まいだけを教えた私の家。
玄関前の扉を開けようとすると、隣に立つ彼の顔から表情が一瞬だけ消えた。
「どうかしたの?」おそるおそる声をかける私。
「い、いや、なんでもない」慌てて返事をする彼。
その素振りを不審に思いながら、ドアに手をかける。
「ただいま」
「早かったわね」
玄関のドアをおもむろに開けると、いつになく着飾ったお母さんが現れた。
白のカシミアセーターの上からジャケットを羽織り、ベージュのロングスカートを穿いている。
私の恋人が来る、と聞いて張り切っているのが見て取れた。
「うちの、お母さん」
「は、初めまして。相原光一です」
「いらっしゃい。話は結美から聞いたわ。さ、上がって」
「お、お邪魔します」
ひょっとして、上ずっている…?
声に違和感を覚えてちらりと顔を見ると、彼の唇が震えていた。
その表情をひた隠しするように、彼はいそいそと準備されたスリッパに足を滑り込ませた。
お母さんの案内でリビングに通された彼は、異国に来たように呆然とした表情をしてソファに腰を下ろした。
「彼、緊張してるわね」
お母さんが遅れてリビングに入った私に近づき、耳元で囁く。
無理もない、かな…と彼を見つめながら胸の中で溜め息をひとつ。
いきなり恋人の家に通されたら、しかも親の人がいたら緊張しないはずがない。
私だったら…と思うと怖くて想像できない。
「お茶、淹れてあげなさい」お母さんがまた囁く。
「うん」
お母さんが彼に話しかける間に、私は上着をダイニングの椅子にかけ、キッチンに入った。
水を入れたやかんをコンロに乗せて火をかけ、お湯を沸かしながらカウンター越しに彼の表情を見る。
相変わらず硬いまま。手はテーブルの上に置いて指を組んでいる。
(……)
悪いことをしたかな…とまた罪の意識を感じてしまう。
やかんが音を立ててお湯が沸騰するのを知らせると、食器棚から急須を取り出し、茶葉を入れてからお湯を注ぐ。
「はい、どうぞ」
茶托を敷いて白い湯飲み茶碗を彼の目の前に置く。
「ふう…」慎重に湯飲みを口に運んだ彼は、ひと口すするとひとつ大きく溜め息をつく。
「どうかした?」
「いや、あったまるなぁ…と思ってさ」
「ふふっ」
お茶を飲んで緊張がほぐれてきたのか、彼の表情に色が戻ってきた。
それを見て、張り詰めていた糸が弛むような心持ちがした。
「そういえば、お昼…」
「実はね、結美がこれから支度するのよ」
「えっ?」
また半音上がったような声を上げて、彼は驚いた。
私が手料理をご馳走するとは思っていなかったらしい。
「実は…そういうことだったの」俯きながら彼に種を明かす。
「……」
返事がないのが気になって顔を上げると、彼は口を半開きにして固まっていた。
ちょっとやりすぎたかな、と反省する。
「相原君?」
「…あっ、ごめん」
「ううん。私のほうこそごめんなさい。騙すつもりじゃなかったんだけど…」
「騙すなんてそんな…むしろ嬉しいよ」
「……ありがとう」
まだ若干引きつった頬を緩めてくれる彼の仕草が、嬉しかった。
「出来上がるの、待ってたらいいのかな?」
「…うんっ」
彼の笑顔のために。
キッチンに入ると即座に準備にかかった。
卵をかき混ぜる手に自然と気持ちがこもった。


私が料理をしている間、相原君はお母さんと世間話に花を咲かせていた。
集中していたからあまり声は聞こえなかったけれど、お茶をすすりながら話す余裕は出てきたらしい。
「よい、しょっと」
出来上がった料理をお皿に盛り付け、お盆に載せてダイニングに運ぶ。
「おまたせ」
「これが星乃さんの手料理かぁ…」
盛り付けられた料理を見て感嘆の声が上がった。
今日作ったのはオムライス。得意な卵料理の一つ。
「どう…かな?」
「うん、おいしい」
「本当?」
「うん。ウソじゃないよ」
今日はどんな反応をしてくれるだろう―――。
私の心配をよそに、彼は取り皿に盛りつけたオムライスを次から次に口に運んでくれる。
「星乃さんも食べなよ」
「う、うん」
勧められて私もスプーンを取る。
ごはんを口に運びながら、彼の動きひとつひとつを意識する。
おいしそうに頬張る姿を見ていると、言葉では表せない幸せを感じる。
「…どうかした?」彼が視線に気づく。
「ううん、なんでもないの」
私の返事を聞くと、またお皿とにらめっこ。
そうしているうちに、大皿に盛り付けたオムライスはものの見事になくなった。
「あー、おなかいっぱい」
「相原君、なんだかおじさんみたい」
背を反りながらお腹をさする相原君の格好を見て、二人で笑う。
「星乃さんの手料理を食べられたなんて、幸せだなぁ」
「もうっ、大げさなんだから」
大げさじゃないよ、とすかさずフォローを入れる彼。
その気遣いが胸の奥をくすぐる。
「私、いないほうがいいかしら?」
ソファで傍観していたお母さんが口を挟む。
「あっ、ごめんなさい…」
「ふふっ、いいのよ。見てるのも楽しいから」
「……」
「……」
反射的に二人で顔を合わせる。
彼の頬がほんのりと紅色に染まる。
「……」
「……」
こらえ切れなくなって、今度はお互いに俯く。
同じ仕草をするものだから、最後には吹き出し笑いが互いの口から漏れた。
「何だか鏡みたいね」
「そうだね。まるっきり同じことしてる」
似たもの同士、と言うにはまだ似ていないだろうけれど、親近感をより強く覚えずにはいられなかった。
「さ、そろそろ片付けなさい。結美」
「あっ」
彼との話に夢中ですっかり忘れていた。
ごちそうさま、という相原君の言葉に会釈して、食器を流しに持っていく。
「あなたたちを見てると、若い頃を思い出すわ…」
お皿を洗っているそばでお母さんはぽつりとこぼした。


片付けが終わるとお母さんは買い物に行くと言って出かけて行った。
家には私と彼の二人きり。
私の家のはずなのに、彼がいることで何だか違う家にいるような感覚だった。
「お昼ごはん、作ってくれてありがとう」
ソファに横並びに座ると、彼から話しかけてきた。
「ううん、そんな…」変に緊張する私は言葉を探すのにひと苦労。
「また、食べたいな」
「…うん」
彼の言葉に辛うじてついていく。
気持ちを落ち着かせようとリビングを見渡す。
いつも見る光景が、色眼鏡をかけられているのか違って見える。
だから余計に落ち着かない。
(…ふう)
肩の力を抜こうと躍起になっている私がいた。
「星乃さんの部屋…行ってもいい?」
そこに彼の突然の申し出。
「え、あっ、それは…ダメ」
「どうして?」
「…それは、言えないの」
「どうしても?」
気持ちが慌てて返事に詰まる。
やましいことは何もない。
でも、突然の申し出だったから心の準備ができていなかった。
だから、頷いて答えた。
「またいつか、ね」
「…うん。ごめん」
残念そうに視線を逸らす彼を見ると、辛くなった。
彼にこんな行動をさせるのは本意じゃない。
私は彼の手をそっと握り、彼の肩に頭をもたげた。
(きっと次には…)
今度来た時には、彼を部屋に招くことができるように。
ひとつ目標を作った。
「星乃さん」
「何?」
頭をもたげたまま視線を上げると、彼の手が近づいてきた。
(えっ…)
その手が私の肩を包むと、彼は体の向きを変えて私を押し倒した。
そのまま、キス。
何が起こったのかわからず固まる私。
「…びっくり、した?」
「…う、うん」
「ごめん」
顔を離した彼は申し訳なさそうに視線を逸らした。
初めての強引なキス。それも、私の家で。
体験したことのない状況で頭が回らなかった。
でも、彼なら構わない―――強引にされても、彼への想いは変わらなかった。
「もう少し、いい?」
眉を下げる彼を見たくない私は、体を起こして自分からキスをした。
今度は彼が固まった。
「…これで、おあいこね」
「…うん」
私の言葉でようやく事の次第を理解したらしく、頭を掻きばつの悪そうな表情を浮かべながら彼は頷いて私から体を離した。
なんだか可笑しな仕草だったけれど、それも彼らしいものなのかもしれない。
二人とも体を起こしたところでガチャリ、という音。
お母さんが帰ってきた。
「二人の時間は過ごせた?」
「あ、はい」
彼が私の代わりに答える。
「でも、楽しい時間はあっという間に過ぎ去っていくものね」
「……」
「……」
お母さんの言葉で、私たちはまた顔を見合わせた。
もうそんな時間なんだ…彼の表情から、そんな言葉が聞こえてきた。
「お邪魔しました」
「いいえ。また来てね」
「あ、はい」
玄関先。
笑顔で相原君を見送るお母さんを見て、キッチンでの言葉を思い出していた。
「いいお母さんだね」
「ありがとう」
手を繋ぎながら坂を下る。
目の前に見えるのは、昼が短い冬だから見られる早い時間の夕焼け。
早く春が来て欲しい。
彼と会える時間が長くなることを願った。
「それじゃ、また来月」
「ええ、待ってるわ」
改札前。
別れ際に私の頬にキスをして、彼は改札に入っていった。


彼を見送って家に帰ると、玄関でお母さんが待ち構えていた。
「あなたもそういう年頃になったのね…」
私の顔を見るなり溜め息をひとつついたお母さん。
その目はどこか愁いを感じさせた。
「何だか、懐かしい…」
(お母さん…)
次第に伏し目がちになったお母さんの表情が、印象的だった。
そのときの私には、何もわからなかったけれど。
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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

コメント

更新お疲れ様です。
なかなか忙しい中で
今回もとてもいい中身でした。
これからも忙しい身だとか。
無理せず頑張ってください。
【2008/03/14 12:08】 URL | 子龍 #V4rYaZBU[ 編集]
ありがとうございます。
ぼちぼちとやっていきますよー。
【2008/03/19 02:13】 URL | Author #y/MN7pSg[ 編集]

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『キミキス』『TLSS』(PS2)の二次創作をやってます。
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