キミキス*Kimikiss SS図書室
PS2ソフト「キミキス*Kimikiss」(©2006 ENTERBRAIN,inc.)のメインヒロイン・星乃結美をメインにした創作小説図書室です。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

Still in Love -14-

甲子園入りした光一。
いよいよ結美との恋もクライマックスへ。


もうすぐ30000ヒット。
ありがとうございます。


※後半で若干修正を加えました。
++++++++++


大阪に着いたのは夜になってからだった。
長時間バスに揺られたせいで足がすっかりむくんでしまった。
階段を降りて地面を踏みつけるとすぐに伸びをする。
縮こまっていたふくらはぎがじわじわと伸びていくのを感じる。
「さあ、飯だぜ」
時計は午後7時半を示そうとしていた。
パンパンの鞄を背負って、宿舎の自動ドアを開ける。
『歓迎 輝日南高等学校野球部様』
入り口に掲げられた文字列で自分がどこにいるのかを確認する。
夢が現実になったという実感がいまだに湧かない。
心はまだ現実に追いついてないらしい。


全員が食事を終えると、その場でミーティングが始まった。
内容は今後の動きについての確認。
2日後に甲子園練習。その翌日に組み合わせ抽選があって、そのまた2日後に開会式。
ボーっとしているとすぐに過ぎてしまいそうなスケジュールだ。
「集中力勝負だ。くれぐれも集中を切らすなよ」
会の終わり、監督がいつものように地を這う声で僕たちに向けて忠告した。
ミーティングが終わって部屋に帰った僕は、窓の向こうに目を向けた。
(星乃さん、今頃どうしてるだろう…)
窓に反射する自分の姿とまだ輝日南にいるであろう想い人の姿を重ねてみる。
その姿が自分が作った幻だとわかっていても、つい手を伸ばして触れてみたくなる。
「星乃さんのことを考えてたのか、相原」
「…ああ」
窓を眺めたまま相方に彼女への想いを訥々と語り、会える日を楽しみに待つ自分を再確認した。


++++++++++


翌日は宿舎から離れたグラウンドを借りて練習をこなした。
柊と並んでブルペンで汗を流し、やがて来る夢舞台での練習に胸を躍らせた。
「明日は本物の甲子園が見られるんだな」
「そうですね」
練習の後、主将が柄にもなく少年野球をやっている小学生のように目を輝かせていた。
―――そして、甲子園練習の日。
朝食を摂ってからユニフォームに着替えてバスに乗り込み、甲子園に向かった。
目的地に着くと荷物を抱えて専用入口から中に入る。
地下通路にコツコツとスパイクの音が響く。
出口から光が差し込むのが見える。
いよいよだ。脈が速くなるのを感じる。
脈の速さに比例して光が少しずつ大きくなる。
通路を突っ切ってグラウンド手前の階段を上り、焦げ茶色の土に足を踏み入れる。
前を向くと、テレビでしか見たことのない濃緑のバックスクリーンを視界に捉えた。
(…来たんだな、甲子園に)
ベンチ前に整列し、巨大な“緑の山”に向かって、緑と焦げ茶のコントラストが映えるグラウンドに向かって一礼する。
画面の向こうにあったものが、いま自分の目前にある。
それだけでもう胸がいっぱいになりそうだった。
「しっかり踏みしめてこいよ」
メガホンを持った監督がベンチから僕たちの尻を叩いた。


わずか30分の練習時間。
ポジションについた全員が広々としたフィールドを縦横無尽に駆け回った。
僕たち投手陣はノックの後、マウンドに立たせてもらって投球練習を交替でこなした。
踏むほどに硬さを感じなくなるマウンドの土に感動しながら、練習のトリを務めさせてもらった。
「ありがとうございました!」
最後に一礼したとき、感極まって泣きそうになるのを上を向いてこらえた。
「いやぁ、広かったぜ」
「あの芝の感触はすげぇよ」
「あんなところで試合ができるなんて、俺たちツイてるよな」
最後の大会になる先輩たちは口を揃えて感嘆していた。
僕たちも思っていることは同じだった。
感動が覚めやらぬまま、翌日の組み合わせ抽選。大阪市内のホテルにすべての出場校が集まった。
「輝日南高等学校」
高校名が呼ばれると、笑顔を忘れてロボットのように固まった主将がくじを引く。
ぎこちない仕草でくじを係の人に渡す。
僕たちはガチガチの主将を笑っている余裕はなく、固唾を呑んで見守っていた。
「輝日南高等学校、18番!」
番号が読み上げられた瞬間に会場がどよめいた。
理由は優勝候補対初出場校、という組み合わせになったからだろう。
「…マジかよ」
輝日南高校の席はどんよりした空気が漂う。
口をあんぐりさせる先輩。肩を落とす先輩。体の力が抜けて立ち上がれない先輩。
一様に先輩たちは落胆していた。
一方、チームの一翼を担う柊はただ冷静に事態を見守っていた。
両者に板ばさみ状態の僕は誰に何を言っていいのかわからず、ただ口を魚のようにパクパクさせるだけだった。
まさかの展開。
春の選抜大会で優勝して、春夏連覇を狙っている高校と1回戦で当たるとは…。
不運としか言い様がない。
くじを引いた主将はがっくりと肩を落として帰ってきた。
「いや、まだ試合をやったわけじゃないんだ」
前向きに努めようとして主将が発した言葉は、僕には苦し紛れに聞こえた。


「大会が始まる前からそんなお通夜気分でどうする!!」
怒声が部屋中に響いた抽選日の夜のミーティング。
監督はいつにもまして厳しい表情で僕らの前に仁王立ちしていた。
「お前ら、何のためにここに来たのかわかってんのか?」
対戦相手がわかってから、練習での覇気は誰が見てもわかるほど下がっていた。
今まで練習でできたことができない。ミスを繰り返す。
ブルペンだけは冷静を装おうとしたけれど、それさえできなかった。
球がうわずる。キャッチミスを続ける。
負が負を招く連鎖が始まったことに、監督は感情を爆発させた。
練習から帰ってきてかれこれ1時間は経っただろうか。
一向に怒りが収まる気配はない。
「試合の前からそんな負けムードを作りやがって。お前ら本気でやる気あんのか!?」
いつもなら主将が言うべき言葉なのに、その主将が監督の言葉に完全に怯えている。
チームの柱であるべき人がこれだから他の選手は言わずもがな。
部屋は静まり返ったまま。
呆れたような表情を浮かべた監督は浴びせ続けた怒声をいったん止め、あるものを取り出した。
表紙から見て甲子園関連の雑誌らしい。
その中から付箋がつけられている部分をおもむろに開けた。
『輝日南高校のラッキーボーイ、相原光一』
(いつの間に…)
そこに載っていたのはエースの柊ではなく、地区決勝で輝日東商に立ち向かった僕の姿だった。
コピーを渡され、記事を読む。


『輝日南高校はエースの柊明良(2年)を中心とするチームだが、地区大会での好投で頭角を現した相原光一(2年)にも注目。
地区決勝の輝日東商戦で見せた相原のピッチングは圧巻。負傷した柊の代役を十分すぎる内容で果たした。
防御率1点台の軸を担う剛の柊、柔の相原。この同級生投手コンビがどこまでチームを引っ張るのか見守りたい。』



「キャプテンでもなく、エースでもなく、ただの控えだった男がこの扱いだ。お前ら、こいつに負けていいのか?」
レギュラー陣に向けて発せられた檄。先輩たちの顔つきが微妙に変わった。
どういう反応をするかちらちらと見た僕は褒められて嬉しいような、ダシにされて嬉しくないような複雑な気分だった。
監督は全員を見回すようにしきりに目を動かし、最後にこう言った。
「お前ら、甲子園で思いっきり暴れてこい」


++++++++++


尻を叩かれて奮起しなければ、甲子園に来た意味はない。
大観衆の中で行進した開会式の余韻に浸る暇もなく、僕たちは練習に取りかかった。
相手が優勝候補だろうがどこだろうが、自分たちを信じ、自分たちの野球をする。
それが輝日南高校野球部のブレてはいけない軸であることを、ボールに、バットに、グローブに、帽子のつばにも染み込ませた。


試合前日の練習後、夕食を摂る前に部屋に帰ろうとすると。
「相原様…いらっしゃいますか?」
「はい、僕ですが」
フロントで僕だけが呼び出しを受けた。
「相原様宛にこちらをお預かりしております」
丁寧な口調で話すホテルの方に恐縮しながら、僕は受け取った封筒をそっと開けた。
中身を見ると便箋とメモ用紙らしき紙が1枚ずつ、その中に綺麗に収められていた。
『相原君へ。今夜8時半に、近くの公園で待ってます。渡したいものがあるので、来てくれると嬉しいです』
星乃さんからの手紙だった。
応援団は今日の夕方には宿舎近くのホテルに着いているという話だから、きっとその足で宿舎に届けてくれたのだろう。
(……あはは)
彼女がもじもじしながらフロント係の人に渡すシーンをつい想像してしまった。
「誰からの手紙だ?」目ざとく柊が訊いてくる。
「ああ、親戚から。試合の日に見に行くからって」
「そうか」
こんなときに咄嗟に嘘がつけるとは我ながらあっぱれだ。
さてどうしたものか。
明日は一回戦。外に出ようにも夜は監督の監視が厳しい。
それをすり抜けるには何か策が必要。
(うーん…)
部屋で悩むわけにはいかず、人気のない奥のソファで一緒に入っていた地図を眺めながら頭を抱えていた。
堂々と玄関から出るのは問題外。
だからといってコソコソとしてもなんだか心苦しい。
どこかにいい方法があれば…。
ソファに寝転がってああでもない、こうでもないと策を練る。
「相原」
「…柊っ!」
自分の世界にすっかり入り込んでいたせいでびっくりする。
「どうしたんだ、そんな顔して」
「どうしたもこうしたも…」
「星乃さんからの手紙だったんだろ。さっきの封筒」
「う…」
この男は妙なところで第六感を働かせてくる。
しかし無二の親友だ。僕は状況を奴に説明した。
奴は二度三度と小さく頷く。
「相原、ちょっといいか」
「あ、えっ!?」
柊は僕の手を取ってまっすぐ玄関に向かった。
これじゃ自殺行為だろ―――と思ったら。


いるはずの監督がいない…!?


「さあ、行って来い」
「柊…」
監督が席を離れている間を狙った。
ただそれだけのことを柊は見逃さなかった。
「サンキュ。恩に着るよ」
気づかれる前にダッシュで宿から飛び出し、星乃さんが待つ場所へ向かった。
(渡したいものって何だろう…)
走りながら頭の中で想像力を働かせる。
近づいてくる車にクラクションを鳴らされながら、車道をひたすら走った。
(はぁ、はぁ、ぜぇ、ぜぇ…)
5分ほど走ったところに、その公園はあった。
中腰になりながら公園の中のベンチを探す。
すると奥のベンチで街灯に照らされるセミロングの髪が見えた。
「星乃さん」
もうひと踏ん張りの力を出して彼女に駆け寄った。
僕に気づいた彼女は、制服姿でも私服姿でもなかった。
「一週間ぶり、ね」
「そうだね」
電話で話したのが一週間前。
顔を合わせて話すのはそれ以上前になる。
「ちょっと、恥ずかしいけど…着てきちゃった」
「……」
「相原君にだけは、先に見てもらいたかったから…」
「…ありがとう」
星乃さんは立ち上がって上に羽織っていたものを脱ぐと、胸に“Kibina”と書かれたノースリーブを露わにした。
チアガール姿の彼女は、輝日南を発つ前に見たときとはまた違ってとても可愛い。
スカートが制服より短いこともあって、内股でもじもじとする仕草が余計に映える。
加えて脇の辺りの無防備さが男の下衆な感情をくすぐってくれるからなんとも憎い。
「そんなにじろじろ見ないで…」
「あっ、ごめん…」
恥ずかしがるか細い声で我に返る。
彼女のあまりの魅力に見とれてしまっていた。
「…ところで、渡したいものって?」
「これなの」
鞄から出して見せてくれたものは、ボールの形をしたお守り。
「甲子園球場のそばに神社があったの。そこで買ってきたのよ」
「へー。ありがとう」
その神社のことは僕も聞いたことがある。
そういえば、明日の試合前に行くって監督が言ってたっけ。
「絵馬も書いてきたわ」
「なんて書いたの?」
「ふふっ、ひみつ」嬉しそうな口調で彼女が言う。
教えてよ、と何度も聞いてみるけれど結果は同じ。
その代わり彼女の顔がどんどん赤くなっていく。
…見ているうちにだんだん面白くなってきた。
「星乃さんが何を書いたか教えてくれるまで、僕はここでずっと待ってるから」
「…もう」
面白がってみるとその意図に気づいたのか、彼女は眉を下げながらうっすらと笑顔を浮かべていた。
つられて僕の頬も緩んだ。
まったりとした空気が二人を包む。
「星乃さん」
僕は弛んだ顔を引き締め、一歩踏み寄って彼女のほっそりした体をそっと腕に包み込んだ。
空気を急に変えたせいか、彼女は驚いてピクリと体を震わせる。
その震えを抑え込むように僕は腕に力を加えた。
「絶対、上まで行ってみせる。星乃さんのために」
「…ありがとう」
負けられない。負けたくない。
腕の中にいるこの人のために、必ず勝たなければ。
「私、一生懸命応援する。だから、相原君も…」
「…うん」
お互いの気持ちを確認する。
あと残されていることは、ただひとつ。
「キス…していい?」
彼女は首を縦に振った。
少しかがんで彼女の唇を目指す。
小刻みに震えているその唇に、そっとキスをした。


ひやりとした夜の風が、彼女の柔らかい髪を靡かせた。
スポンサーサイト

テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

コメント

コメントの投稿













管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

当室はリンクフリーですが、ご一報いただけると幸いです。
御用の方はメールフォームからどうぞ。

来訪者数

最近の記事

カテゴリー

プロフィール

星乃裕一

Author:星乃裕一
SS書き5年目。

『キミキス』『TLSS』(PS2)の二次創作をやってます。
『アマガミ』の二次創作もぼちぼちと。


mixi参加してます。
下記メールリンクより管理人宛にアド添付してメールをいただければご招待させていただきます。
あわせて感想などもありましたらどうぞ。

管理人メール

リンク

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

ブロとも申請フォーム

ブログ内検索

RSSフィード

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。