キミキス*Kimikiss SS図書室
PS2ソフト「キミキス*Kimikiss」(©2006 ENTERBRAIN,inc.)のメインヒロイン・星乃結美をメインにした創作小説図書室です。

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記憶の鍵 -2-

「記憶の鍵」の第2話です。


久しぶりにTLSSをプレイしました。
オープニングとエンディングのBGMは好きです。個人的に。
++++++++++


森のふもとにある鳥居をくぐると、うっそうと生い茂った木々が僕たちを招き入れる。
その緑の真ん中を貫く石階段の先に“ひみつのばしょ”はあった。
「ここなの」
二百段ほどの石階段を上りきったところに、他の木を従えてずんと根を下ろしている大木があった。
見上げると、その大木の幹には鳥の巣ほどの大きな穴が開いているのが見える。
そこに向かって緋菜ちゃんが先に登り、遅れて僕が登った。
「わー、たかーい」
「でしょー」
穴にたどり着いて振り返ると、見たことのない光景に身震いするほど興奮した。
小高い山の中腹にあるこの木には、ちょうど町が見える角度に穴が開いている。
遮るものは何もない。
まるで自分たちが鳥になったようだった。
僕たちは穴から身を乗り出し、食い入るように目の前の景色を見つめる。
「すごいねー」
「でしょー?ゆうたくんにみせたかったんだ」
「ほんとに?」
「うん」  
二人で見える景色をひと通り楽しむと、今度は穴の奥に身を潜めた。
鬼ごっこの最中だし、るり姉が見つけないとも限らないのだ。


わしわしと騒がしい蝉時雨に囲まれた秘密の場所。
でも誰にも邪魔されない、二人だけの空間。
やましい感情など存在しない、ただ純粋な感情が僕たちを包んでいた。
僕は緋菜ちゃんの左手を取り、自分の右手で軽くぎゅっと握った。
呼応するように、緋菜ちゃんの右手がその上に重ねられる。
「ひなちゃん」
「なに?ゆうたくん」
「……」
「どうしたの?」
「けっこんしき…きっとしようね」
「…うん」
去年の夏、帰るときに約束した“結婚式”。
子どもの言う“結婚式”だから他愛もないものだけど、二人にとっては大事な約束。
“ずっといっしょ”という互いの想いを、手の温もりを通じて改めて確認する。
―――ずっとこのままならいいのに。
そんなわがままを言ってみたくなった。


++++++++++


二人で隠れて数時間。
秘密の場所の近くを通ったのは、上にある神社の本殿に向かう老夫婦一組だけ。
るり姉がこの場所に見当をつけることはなかった。
「るりちゃん、こないね」
「…うん」
さすがにやりすぎたかな、と二人して顔を合わせる。
いつの間にか茜色に焼けた空を見上げて、僕たちはるり姉が探しに来てくれるのを待ち続けた。
二人とも膝を曲げてちょこんと体育座り。
膝の上に顎を乗せて、誰かが近づいてくるのを待った。
十分。
三十分。
一時間。
どれだけ待っても、足音ひとつ聞こえてこない。
そんなことはお構いなしに、太陽は地平線へと沈んでいく。
―――寂しい。
また互いに顔を見合わせる。
どちらからともなく近づき、離していた手をまた取り合う。
おそらく…同じことを考えていた。
緋菜ちゃんは泣きそうな顔をしながら体を小刻みに震わせている。
僕が震えたら緋菜ちゃんが余計に不安になる…と子供心に思った僕は、怖いという感情を無理やり抑え込んだ。
「きっとだいじょうぶ」
「…うん」
自分にも言い聞かせるように、緋菜ちゃんに声をかけた。
そのまま数分。
「ひなちゃーん」
「ゆうたー」
ふもとから僕たちを呼ぶ声がした。
穴から身を乗り出して声のしたほうを見てみる。
背の高い大人が2人と小さい子どもが1人、何かを手に持って僕たちを呼んでいた。
「ゆうたー、ひなちゃーん」
―――るり姉だ。
るり姉の呼ぶ声がはっきりと聞こえる。
「おりよっか」
「…うん」
るり姉の声で安心したのか、緋菜ちゃんの体の震えは止まっていた。
ゆっくりと木から降りる。
それから手をつないで階段を下り、鳥居のそばにいるらしいみんなに近づいていく。
懐中電灯の明かりがゆらゆらと動いて僕らを誘う。
「あ、ふたりともみっけた」
鳥居をくぐったところで、僕たちの姿を見たるり姉がいたずらっぽく笑いながら言った。
そのそばで父さんは仁王立ちをして、腕組みをしながら僕を睨みつける。
そして無言のまま、顎で母さんのところに行くように示した。
父さんが示した先には、病院から外出許可をもらって家に戻ってきた母さんがいた。
近づくと寝巻きを着たままの母さんは怒りもせず、しゃがんで僕と目線を合わせようとする。
僕と目が合うとゆっくり僕を抱き寄せて頭を撫で、そっと耳元で囁いた。
「どこまで行ってたの?」
母さんの胸の中はすべてを包み込むように温かい。
その温かさが僕の心を溶かし、抑えていたものを抑えきれなくさせた。
「うわーん」
母さんの胸の中で、とうとう僕は大きな声を出して泣いてしまった。
その僕の頭を…母さんはただ、優しく撫で続けてくれた。
「あんまり遠くに行っちゃだめよ」
「…うん、グスッ」
鼻をすすりながら僕は答えた。
病院から帰ってきたばかりの母さんを心配させたことが、辛かった。
それなのに、辛い顔ひとつせず笑顔で接してくれる母さん。
僕はそんな母さんに何か言いたかったけど、言葉にならなくて嗚咽ばかりしていた。
「おばさん」
「あら、緋菜ちゃん」
泣いている僕のそばに、緋菜ちゃんは歩み寄ってきた。
「ゆうたくんを…おこらないであげてください。ここにつれてきたのはわたしなんです」
「そう」
「…ごめんなさい」
緋菜ちゃんは母さんに頭を下げて謝っていた。
彼女の瞳からも何かがこぼれ落ちている。
涙でぼやけた僕の目からも、その雫を確かめることができた。
「ひな…グスッ…ちゃん」
「ごめんね…ゆうたくん」
「おーい、ここで写真撮るぞ」
互いの泣き顔を見合わせていると、父さんの声が聞こえた。
「せっかく母さんが帰ってきたんだ。記念に撮っておこう」
そんなのいいわよ、と手を振って遠慮する母さんを無理やり誘って、父さんはみんなに鳥居を背にするよう言った。
「ほら勇太、そんなに泣くな」
「でも、でも…」
ファインダーの向こうの父さんに何か言おうとしたけれど、また言葉にならなかった。
それを察したのか、父さんは構えていたカメラを降ろし、苦笑いを浮かべていた。


++++++++++


―――これが、僕の手を止めた写真を撮るまでの一部始終。
僕が涙目をこすっている最中に父さんはシャッターを切っていた。
だから写真に写っている小さい僕は、丸めた手を目に当てている。
父さんが構えていたカメラを降ろしたのは何かを察していたのではなく、もう写真を撮り終えていたんだ。
いまさらだけど、気がついた。


この日からしばらくして、母さんは家から忽然と姿を消した。
次に母さんに会ったのは病院のベッドの上。
白い浴衣のようなものを着て、顔には真っ白の布が被されていた。
母さんがなぜそこにいたのか。
どうしてそんな格好をしていたのか。
姉貴と一緒に父さんに連れられた僕は、状況をすぐに飲み込むことができなかった。
るり姉はもう話を聞いていたのか、何も言わずただ俯いていた。
一方の僕は母さんを訪ねてくる人たちが次々と現れて一様に悲しそうな表情をするのを見ているうちに、ようやく事の重大さに気がついた。


母さんは、もう帰ってこない。


お葬式が終わった後、父さんは小さな壷のようなものを持ち、僕らは田舎を後にした。
それっきり、母さんの田舎に帰ることも、その田舎に住んでいた彼女に会うことも…なくなった。
大人たちはまだ幼すぎる僕を悲しませないように、夜中に救急車で運ばれるのを気づかれないように気を遣っていた。
でもそれは、かえって僕の心を閉ざすことになってしまった。
地元に戻ってからというもの、僕は母さんの死を受け入れられず、遺影の前でずっと泣き続けていた。
と同時に、大事な思い出の鍵をも締め切ってしまった。


僕は母さんの記憶と一緒に昔の記憶―――緋菜ちゃんとの思い出を、ずっとずっと心の奥底にしまいこんでいた。
再び彼女に出会わなければ、その記憶の鍵は閉ざされたままだった。
彼女が田舎から久夏に越してきていなければ、というほうが正しいだろうか。
どちらにしても、緋菜ちゃんがこの場にいなければ幼い頃のアルバムを見ることは永遠になかった。
昔の思い出に浸ることも、永遠になかったかもしれない。
だから今、こうして昔のアルバムを見ているのが不思議だ。
「……くん?」
「……」
「勇太くん?」
「えっ?」
記憶の世界にどっぷりはまっていたせいで、緋菜ちゃんの呼ぶ声に気づかなかった。
「あ…ごめん」
頭をかいて謝る僕を見て、彼女はくすりと笑う。
「緋菜ちゃん」
「何?」
「…本当に、ごめんね」
昔の記憶を思い出せず彼女を傷つけていた1年前を思い出して、申し訳ない気持ちが湧き出てくるのを抑えられなかった。
告白のとき、うんとうんと謝ったのに。
「ううん、いいの」
彼女は静かに首を振った。
そして落ち着いた表情に比例する穏やかな声が、彼女の口から発せられる。




「私は、ね」
僕が去年の夏にあげた指輪を眺めて、彼女は言った。
「あなたとまた会えることができて、こうやって一緒におしゃべりできて…私はそれで嬉しいから」
昔と変わらないツインテールを揺らし、彼女は僕に微笑みかけた。
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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

コメント

TLSSのその後の物語って感じですね。この間のコメントに書いたようにTLSSの大筋は知っているので楽しめました。今回は勇太の過去に主眼を置いた話でしたね。TLSSもまた機会があればやってみたいです。
そろそろ長編の続きが見たいなぁ……。
【2007/08/08 23:22】 URL | Kein #sa7XU41w[ 編集]
どもです。
確かにその後の物語…いわゆるアフターストーリーとして今回は書き上げました。
長編はもうしばらくお待ちくださいませ。
【2007/08/11 22:15】 URL | Author #y/MN7pSg[ 編集]

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『キミキス』『TLSS』(PS2)の二次創作をやってます。
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